つれづれ美術手帖

アート関連のアウトプットブログです。

模写と修復 日本の文化財が汚れている理由

500年以上前の絵画が今でも美しく観られる西洋絵画に対して、

日本の絵画や仏像は江戸時代に制作されたものでも錆や退色(色あせ)が目立ちますよね。


今回は、その理由を、日本絵画の特徴と模写・修復の考え方に焦点を当てて考察していきたいと思います。

 

*模写(模刻)について*

  • 現状模写 汚れや退色等を忠実に再現した模写
  • 復元模写 描かれた当時を復元する模写 世界の主流で昔からある方法
  • 日本の今の主流は「現状模写」

*修復について*

  • 洗浄→修復(補色)→仕上げ
  • 日本は絵具や支持体が繊細
  • 日本では「洗浄」「補色」が難しい

*日本の文化財が汚れている理由*

  • 模写作品は現在ある汚れを忠実に再現した現状模写をされている
  • 文化財は画材の関係で洗浄や補色が難しいため汚れたまま修復される

 

 

模写について

*古くは伝統技術の継承のため行われた*

模写の歴史は古く、古代ローマ美術時代(BC1世紀頃)から行われてきました。

中世の美術は、画家の個性よりも伝統的な形式を守り受け継ぐことが良しとされていたため、芸術家は常に伝統の模写が求められていました。

中国においても、「画の六法(南北朝時代 439-589年)」で、六つある評価項目の一つとされるほど、模写は絵画において重要な要素とされていました。

「画の六法」については、別で記事にしていますのでそちらをご覧ください。(https://funart.hatenablog.com/entry/2020/06/01/172512)

その後、模写は文化財を保護・活用・研究のためにも行われるようになりました。

 
 


*模写の方法*

  • 現状模写 絵画を現在の剥落や退色などがある状態のまま、模写すること
  • 復元模写 絵画が制作された当時の形や色彩などを研究し再現する


大前提として、どちらも絵画が描かれた当時使用されていた画材を研究し、正確な画材で描かれますが、目的の違いなどから2つの方法で模写が行われます。

また、その技法には元の絵画を横に置いて模写する臨模(りんも)と、元の絵画の上に紙を置いて写し取る透写しというものがあります。


*日本は「現状模写」が主流*

世界中で古くより行われている模写のほとんどは「復元模写」ですが、現在日本の主流は「現状模写」です。

伝統技術の継承や練習であれば、復元模写のほうが画家の作中の意図に迫れるような気がしますが、なぜか日本では現状模写の手法が採られています。

ではなぜ現状模写が日本の模写の主流となったのか。

ここからは、少し現状模写と復元模写のメリット・デメリットを考えてみたいと思います。


現状模写

〇 現状維持で、絵具や支持体を新しくして残せる

〇 制作者は経年劣化のプロセスを知ることができる

× 当時の絵画の様子を知ることはできない

復元模写

〇 絵画が描かれた当時の様子を知ることができる

× 化学的根拠がないと作者の意図からずれてしまう可能性がある

※メリット:〇 デメリット:×

 

このように考えると、日本は「作者の意図からずれること」や「現状維持できるメリット」を考えて、現状模写を選んだのでは?と推測します。

(他にもメリット・デメリットなど、ご意見あれば追加したいと思います。皆様のご意見もぜひコメントください。)

 

 

修復について

 

*修復の流れ*

洗浄→修復(補色)→仕上げ

修復は、簡単に言うと上のような流れで行います。

まずは表面の汚れを薬品などで落とし、支持体(絵具をのせる物、日本でいえば紙や絹など)を補強し、退色や剥離してしまった色を補い、ニスなどでコーティングします。


*日本は絵具や支持体が繊細

日本絵画は、他と比べて画材が繊細であるため、先に挙げた工程の中で行うことが難しいものがあります。


まず、支持体が油絵と比べ、特に紙は湿気や光にとても弱く、繊細です。

また、日本画の絵具は、接着剤である「膠(にかわ)」が、水に溶けやすいため、絵具が流れてしまうため、「洗浄」が難しいです。

また、膠は接着するときの濃度を変えられるため、下手に絵具を載せると剥離の原因になることから、「補色」で色を補うことが難しくなります。

そのため、日本の文化財は裏面に紙を貼って(裏打ち)補強することが日本の修復の主流となりました。

 


まとめ

模写作品は

・作者の制作意図からずれる

・現状維持に重きを置いている

このようなことから、現在ある汚れなどを忠実に再現した現状模写が採用され


作品の修復は

・支持体や絵具が繊細

・洗浄・補色することが難しい

このようなことから、汚れを残したまま修復される

ではないかと推測します。

また、そこには「美しかった過去の作品を取り戻したい」というより、

「今の作品で充分素晴らしい」と考える、わびさびの精神があるのではとも考えました。

 


おまけ ~仏像の復元模刻は派手すぎる~

興福寺の阿修羅像を勝手に(現状模刻でなく)復元模刻したところ、「こんなのは阿修羅像ではない!」と大バッシングを受けたそう。

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(写真)右が問題の阿修羅像。現在は九州国立博物館に所蔵されているみたいです。

もともと仏像は極彩色や金で作られていますが、酸化して黒くなった仏像を見慣れていますよね。

「見慣れていない」作られた当初の作品は、かえって日本人にとって奇抜なものなのかもしれません。

 


いかがだったでしょうか

ちなみに、もともとの色を見たい人は双眼鏡を持っていって「くぼみ」を見ると見えることがありますよ

※ただし、仏像はもともと信仰するためのもの。観察したい人は最低限、礼をしてからにしましょう!

 

内容の認識違い等ありましたら、ぜひコメント等で教えてください

 

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投稿 2020.03.15

更新 2020.12.09

参考 

北田克己アトリエ通信 日本の模写のかたち

http://blog.katsumikitada.com/2011/11/post-1ed4.html

院展同人北田克己先生のブログに興味深い記事がありました。少し専門的な内容ですが、興味のある方はぜひ。


修復について 伝世舎

http://www.denseisya.com/repair/


謎のお仕事。絵画を修復する人々 NY絵描きマミー

https://yukiyoart.com/info_art_5/